会長コラムCOLUMN
第8回 「後継経営者 養成講座(1)」 2007.12.25
経営者A:
長男が大学を卒業します。当社の後継者にと思っているのですが、
まず必要な資質をそれとなく話そうと思っています。
私は、人の気持ちを理解する感受性と、筋道を通して考える思考力が重要だと考えています。
どのような資質が大事なのかは人によって千差万別だとは思うのですが、アドバイスをお願いします。
伊豆野税理士(実は坂部です):
はい、経営者にはいろいろな資質が必要だといわれています。
もちろん、対人感受性も論理的思考力も重要です。私の尊敬するTKC全国会
(全国約 10,000名の公認会計士・税理士の集まり)の創始者、故飯塚毅名誉会長は、
その著作「会計人の原点」161頁から164頁で、
「不動心−自我を捨てる。要は、経営者は自分という人間をいかに鍛えるか。」と仰っています。
この辺のところは、禅に造詣が深い飯塚会長ですから、言い切っても差し支えないのでしょうが、
なかなか一般には伝わりきれないものがあります。
ここから先は、私の見解です。まず、経営者の資質として多くが求められますが、その根本にある力、
それは「想像力」だと思っています。年収300万円の 男と年収3,000万円の男との違いは、
この「想像力」にあると密かに思っています。
「最近の若い子は言われたことはちゃんとやるけど、なにか物足りない よね。」という話はよく聞きます。
もちろん、その背景には、「この仕事は自分の望むところではない。だから、言われたことはやるけど、
それ以上やる気はね〜。」などの背景があるのでしょうが、経営者は、自分の環境は与えられ、
それから逃げるわけにはいかないという宿命を帯びています。つまり、自分の環境 は変えていかねばならない、
自分で変えることができる立場にあるということです。これが、自覚できるかどうか。
ある新人営業マンが、上司に「得意先の忘年会に行け。」と言われました。彼は、思います。
「あ〜あ、よっぽど友達と飲んでいる方が楽しいや。」
でも、経営者をめざす後継者A君であれば、その瞬間考えます。
「主宰会社の規模や会場はどこだ。じゃあ、出席者はどんな人たちで、どんな話が聞けるだろう。
その会社の経営者や奥様などの家族は出席するんだろうか。」
そして、その瞬間、自分の服装やそのときの立ち居振る舞いのイメージが固まります。
たいていの場合、そのイメージは大きくはずれるでしょう。でも、その積み重ねが、実は経営者に必要な
コンセプチュアル・スキル(いわゆる戦略立案力)にもつながるのです。想像力を駆使して、
将来のあるべきイメージを作り、それを今に引き直して行動する。これは経営者のみに必要なものではなく、
全ての人に必要な能力なのかもしれません。
もう一つ言うと、われわれの業界で税理士試験というものがあります。これが、どうもなかなか難しい。
法規集持ち込みではないので、受験予備校の問題集暗記の傾向が強い。でも、私からいわせると、
これはどうもおかしい。実務では、もともと答えがあるわけではないので、考えない暗記では困るのです
本来であれば、試験は問題が与えられ、その解決をはかるために、税法や取扱い通達、判例などを駆使して
結論を導くという作業が必要なのです。その作業の根底にあるものも、実は「想像力」であると睨んでいます。
そして、「想像力」を磨かない試験制度は実務試験にはなじまないとも考えています。