会長コラムCOLUMN
第23回 「トロッコ」 2011.02.20
川口浩史監督「トロッコ」を見た。飯田橋のギンレイホールという名画座。
台湾東部の華蓮という村の亜熱帯特有の緑の濃さが背景に美しく描かれている。
父を突然亡くした8歳(敦)と6歳(凱)の兄弟が母(夕美子)とともに父の遺灰を持って帰ってくる。
それを迎える老父母と叔父夫婦。敦が大切に持ってきたのは亡くなる前にお父さんから手渡された古い写真。
そこに写っているトロッコを押す少年は戦前のおじいちゃんだった。凱は甘えん坊の次男坊。
東京での敦は父親を亡くした悲しみも、母親を案ずる気持ちも小さな胸にしまいこんでいた。
お母さんがおばあちゃんに子育てや今後の生活の不安を打ち明けているのを偶然耳にする敦。
凱とともにトロッコの旅に出る敦。
子供が飛躍的に成長する時がある。その映像化に見事に成功している作品だと思う。
「家族」という場所はいつでも、どこでも人を温かくやさしく包んでくれる。
少年の目も老人や母の眼差しは豊かで深い。
昭和30年代の日本はこんな感じだったなあと思いながら見た。
私が小学校低学年の頃の役割は、仕事(魚屋を営んでいた。)を終えた父のために
2本のビンビールを近所の酒屋へ買い出しに行くことだった。
あるとき、自宅シャッターの前でビールを1本落としてしまう。ビンは砕け散ってビールの泡が道路に広がる。
その泡が消えても、足がすくんでシャッターの脇からうちに入れない。
父は恐かった。家の中からは光が漏れ、暗闇をうっすら照らす。何十分経っただろうか。
光のなかから母が現れ、少年の私の肩を抱いて中に導き入れてくれる。思い出してしまった。
つぎあてが当たり前の貧しい暮らしだったけど、豊かな時代でもあったなあ。