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総則6項って納税者の敵!?(タワーマンション節税封じ)

1.新聞報道と身近な事例

 10月9日の日本経済新聞に『「タワマン」が秘める節税効果 富裕層が注目』という記事が掲載されました。内容をかいつまんで紹介すると、「2年前に東京都の会社経営者Aさんが都心の3LDKを約1億1千万円で購入し、会社員の長男に近隣の相場並みで賃貸しました。長男一家は憧れだったタワーマンションに住むことができ、さらに相続税がざっと4,500万円安くなりました。」これは、タワーマンションの実売価格と相続税評価額とのかい離を狙った節税策を満喫している内容なのです。


2.経済現象と税制上のゆがみを活かすことが是か

 税務上の判断は、税法という一定のルールに基づいて行われますが、世の中の経済現象のすべてを法律の条文という形でルール化することはできません。
 そこで、最低限のルールを決めておき、それで決めきれないものは条文解釈で補うことになっており、その解釈の指針として国税庁から各種の解釈のための通達が出されています。この通達は国税庁から税務行政の現場である税務署の担当官に示される命令にあたるものです。税務調査官は絶対服従でも、我々国民はこの解釈に縛られることはありません。ただ、一般的には、通達に従って申告しておけば税務署との無用な軋轢を引き起こすことはないので、税金計算の指針とされます。
 ところが、その通達に忠実に従うことで、大きな節税になることに着目した手法がもてはやされると、税務署も見過ごすわけにはいかなくなります。今回、タワーマンションを使った相続税の行き過ぎた節税に歯止めがかかりました。


3.タワーマンションの節税のしくみ

 ここで前述の日経新聞の記事を引用してタワーマンションの節税の仕組みを説明します。相続税は相続財産を評価し、その総額に応じて税率が適用されます。現預金のまま相続を迎えれば約1億1千万円をベースに税率が適用されますが、その現金で不動産を購入すれば、不動産の評価で相続税が課税されます。購入した不動産が1億1千万円のタワーマンションの場合、評価は標準的な税務通達に基づいて行うと、8,300万円も低い2,700万円になります。この差額に相続税の最高税率を掛けた4,500万円が節税になるというわけです。
 それでは、なぜ取引価額(時価)と相続税評価額はかけ離れるのでしょうか。それは相続税の実務では、都市部の土地は路線価で評価されます。路線価は時価の8割評価といわれ、さらにタワーマンションは敷地の割に戸数が多く、1戸あたりの土地の持ち分が小さくなり評価額が下がるというわけです。一方建物は固定資産税評価額で評価されます。固定資産税評価額は、行政がもつ基準に従い人件費や資材費などの建築コストを積み上げて計算され、一般的に時価の40%〜60%とされています。眺望や日当たりのよい高層階は低層階より時価は高くなっていますが、固定資産税評価額は変わらないので、高層階ほど、時価と評価額がかけ離れる結果となります。


4.タワーマンション節税のリスク

 その効果を見ると驚くばかりですが、実際には水面下で多くの税務トラブルが発生しています。数千万円の節税ができたと喜んでいる矢先、税務署から「これは行き過ぎた節税です。修正申告をお願いします。」と指摘され、修正申告に応じ差額の税金を支払います。修正に納得できないということで、国税不服審判所に審査請求を提出しても、却下され、節税がパーになるケースも見られます(平成23年7月1日裁決 相続税評価額との乖離約5倍)。
 国税庁は、平成27年10月29日の記者会見で以下のような見解を示しています。「当庁としては、実質的な租税負担の公平から看過しがたい事態がある場合には、これまでも財産評価基本通達総則第6項(以下総則6項という)を活用してきたところですが、今後も、適正な課税の観点から総則6項の運用を行いたいと考えています。」


5.財産評価基本通達総則第6項の存在意義

 「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁の長官の指示を受けて評価する。」と定めているのが総則6項です。これは行き過ぎた節税を抑えるための規定であるといわれています。これにより、原則的な評価(通達の定め)ではなく、実際の取引価格をベースに修正を求めるのです。それでは、タワーマンションは全て総則6項評価なのかというと、そんなことはないと思います。その取得の時期や目的、使用状況などを勘案して、著しい節税を狙ったものなのかどうかが総合的に判断されます。
 もう一度、総則6項を読んでみて下さい。相続財産は不当に低く評価されれば、国税がもっと上げなさいと言ってきますが、逆に不当に高く評価されれば、もっと安く評価することを国税にお願いできると読めませんか。これは課税の公平を守る国税と国民との相互に有効な切り札といえると考えるべきなのです。

(坂部 達夫)

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