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上場株式等の譲渡益や配当金の住民税申告
平成29年度税制改正により、上場株式等の配当所得や譲渡所得について、所得税と住民税で異なる課税方式の選択が出来ることが明確化されました。これを利用し、次のようなそれぞれの課税方式を選択することによって、納税者に有利となるケースが考えられます。
1.所得税と住民税の課税方式選択により納税者が有利と考えられるケース
@ 上場株式等の配当所得について、所得税は総合課税制度を選択し、住民税申告において申告不要制度(または申告分離課税制度)を選択する。
A 上場株式等の譲渡所得等について、所得税の申告分離制度を選択して損益通算や譲渡損失の繰越控除制度を適用し、住民税申告において申告不要制度を選択する。
※Aの申告不要制度を活用する場合には、上場株式等の譲渡所得等を源泉徴収ありの特定口座で管理している必要があります。また、条件により有利・不利が異なりますので、申告前に必ず判定を行ってください。
2.留意点
@ 総合課税される課税所得金額にご注意ください
上場株式等の配当金は、所得税15.315%及び住民税5%が源泉徴収されています。
しかし、上場株式等の配当所得について総合課税制度を選択した場合、最大限配当控除を考慮しても住民税の税率は10%−2.8%=7.2%となりますので、住民税については申告不要制度を選択した方が有利となります。一方、累進税率である所得税率は、配当控除率10%を差し引いた正味税率で考えた場合、課税所得金額が900万円以下であれば、その税率は最大で23.483%−10%=13.483%となります。以上のことから、所得税を総合課税制度、住民税は申告不要制度を選択することで個人の税負担が減少する計算となります。
したがって、総合課税される課税所得が900万円を超える場合は、所得税について総合課税を選択すると不利になることがあります。
A 国民健康保険料や医療費の自己負担割合等への影響にご注意ください
確定申告において、上場株式等の譲渡所得等の損益通算や譲渡損失の繰越控除制度を適用し、還付申告を行うことがありますが、ほとんどの地方自治体が国民健康保険料、介護保険料、後期高齢者医療制度保険料の計算、そして医療費の自己負担割合を決定するための基準に住民税の所得金額として申告された金額を用いています。そのため、申告を行ったことにより、これらが増加するケースが考えられます。
自営業者の方等は、国民健康保険料等への影響も考慮し、所得税の損益通算や譲渡損失の繰越控除制度の適用及び住民税の申告不要制度の選択を行う必要があります。
B 申告手続きと申告期限について
住民税の申告書を作成すると言われてもピンとこない方も多いかと思います。
通常、所得税の確定申告書を提出すれば、住民税の申告書も提出されたものとみなされます。また、所得税の確定申告書に記載された内容が住民税の申告書に記載されたものとみなされます。つまり、税務署に提出する通常の確定申告書とは別にお住まいの市区町村に対して住民税の申告書を提出しない限り、所得税と同様の課税方式が適用されるという事になります。
ホームページに記載されている市区町村もありますが、数か所の市区町村へ確認したところ、住民税の納税通知書が送付される前までに住民税の申告書を提出すれば、所得税と異なる課税方式を選択できるとのことでした(申告前に必要書類を含め、市区町村へ確認することをお勧めいたします)。
また、住民税の申告不要制度を選択するために申告書を提出するという矛盾が生じることになりますので、課税側へ申告の意図が伝わらない可能性が考えられます。住民税申告書の備考欄等に上場株式等の譲渡所得について申告不要制度を選択する旨等の付記をしていただく等、課税側への意思表示を明確にする必要があると思われます。
( 松永 賢 )