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(発行日 2022年6月15日) 編集・発行 株式会社 アサヒ・ビジネスセンター

はじめに

代表取締役・税理士  坂部 達夫


 目に余る節税が納税者や事業者の行動を変えるケースがあります。一つの例として「市場価格と路線価評価との乖離」を利用した節税策で、実際の市場での売買価額と相続税の計算における価格差が極端に開くことがあります。4月19日に最高裁の判決が確定した事例でも、マンションの相続税評価額は時価の4分の1になっていました。相続税計算における路線価で評価した相続税額は0円だったのに国税が示した時価での相続税額は2.4億円です。国税庁の裁量で評価できる「財産評価基本通達6項」を使った、国税の主張が通った判決でした。もちろんこのような乖離の激しいタワーマンションで、しかも相続までの期間が短いという相続税の圧縮としか思えない事例は極端かもしれません。
 今月のトピックスは、最近話題に上っている相続税の圧縮の定番である「暦年贈与」の制度変更に関して整理をしました。これは、「乖離を利用した節税策封じ」以上のインパクトがあるかもしれません。

 

今月のトピックス

生前贈与ができなくなるの? 

税理士  坂部 達夫  

 令和4年度の税制改正大綱において、暦年贈与課税の見直しが改めて示唆されました。
 ここでは、字数の関係で、その全文を掲載できませんが、意訳すると、「今年は改正を見送るが、これを予告と考えてほしい。親世代から子世代への柔軟な資金移動を容易にしたうえで、金持ちの相続税対策は封じるよ」という内容です。その内容は、「生前贈与がダメになる」わけではなく、生前贈与と相続を一体化して課税する、すなわち現行の相続税及び贈与税のあり方を見直した上で、贈与財産を相続時に相続税計算に取り込むというものです。
 これは令和3年度の検討項目の内容と同様ですから、令和4年度の税制改正大綱発表前から「生前贈与ができなくなるのでは」という憶測が流れ、『週刊ダイヤモンド』では、「生前贈与がダメになる前に相続対策を!」(2021年10月30日号)、さらに「年内の2週間でもできます!」(同年12月18号)などという表紙見出しを付けて、生前贈与の特集を組んでいました。

1.いつから改正されるのか

 『週刊ダイヤモンド』の「年内の2週間でもできます!」という記事が出た後、顧問先あるいは同業の税理士から多くの問い合わせを受けました。
 私は、「本来このような大きな改正が行われるときには、政府税制調査会で十分な議論が行われるはずです。まだ具体的な議論は行われていませんので、その記事の内容は『見込み』『可能性』と捉えておけばいいと思います。ただ、仮にそういう内容を含む税制改正法案が令和4年3月に成立しても、納税者に不利な改正項目について、令和4年1月1日に遡及して適用される可能性はほとんどありません」と答えました。
 仮に、令和5年度にこの改正が実現しても、改正日後の翌年以降、すなわち令和6年の1月1日からの贈与に対して適用されるのが最短と考えていいのです。

2.「一体的に課税とは」具体的にはどのようになる?

 「相続税と贈与税(暦年課税)を一体的に課税する」とは具体的にどうするのかということのヒントは、令和2年度の政府税制調査会の改正議論の中にありました。そこには、2つの課税方式が示されています(相続時精算課税方式は確立している制度なので説明対象外です)。
 その一つが、「一生累積課税方式」と言われるもので、贈与の都度、過去の贈与分と合算して贈与税を計算し、過去に計算された贈与税の累積額を控除するというものです。相続の時には、過去の贈与財産を相続財産に足して、贈与税累計額を控除します。これによれば、生前贈与をしようがしまいが、最終的に負担する税額は変わらないことになります。
 ただし、これによると税務当局がすべての人の財産を管理する必要があるため(親子間と夫婦間の財産移転も含めて)、コストや手間などから実現の可能性に問題があると言われています。
 もう一つが「一定期間累積課税方式」と言われているもので、一生ではなく、相続(贈与者が亡くなる)前の一定の期間で区切って、贈与財産を相続財産に足し戻すというものです。わが国の現行税制では3年と決まっていますが、これを延長しようという発想です。イギリスが7年、ドイツが10年、フランスが15年というのが参考にされています。
 私は、令和元年の民法改正で、遺留分の対象財産が、相続人に対する贈与に限り10年に(民法1044③)改正されたことを受けた、10年という案が合理的だと考えています。

3.生活費や教育費は贈与税の対象外であることを知っておく

 扶養義務者相互間における生活費や教育費の贈与は、非課税とされています(相法21の3①二)。つまり、日常生活に必要な経費であり、通常必要と認められるものについては課税しないということになっているのです。
 「扶養義務者」とは、配偶者及び民法877条《扶養義務者》に規定する直系血族(祖父母含む)、兄弟姉妹等とても広い範囲です。
 私は、配偶者に生活費を渡したり、子供の教育費を負担したりするのは、配偶者や親として当然の行為であり、極めて健全で課税の余地はないと思います。生活する過程で相続財産が家族のために費消されるのは、身の程からずれた生前贈与と一線を画すものです。
 ただし、合法的に相続税対策の生前贈与を考えるのであれば、早めの決断と対応が必要です。導入時期は令和6年以降と予測しますので、あと2年実施できます。生前贈与を相続時に精算する一体化課税の導入は避けられないと考えます。


私の部屋       「 電子書籍 」

 
 先日の政府の税制調査会において「働き方の変化」をテーマに有識者からヒアリングが行われました。資料を見る限りですが、リモートワークを希望する求職者の増加、リモートによる地方での副業機会の増加、勤務間インターバル制度導入による生産性の向上、子ども・子育て支援(女性の活躍及び男性の育休推進など)による社会全体のメリットといった内容がヒアリングされていたようです。税制とそれ程強い結びつきがあるとは感じませんでしたが、子ども・子育て支援は子ども世代も受益者となるので国債を発行することにも一定の理がある、公教育の充実は経済格差の縮小にもつながるという考え方はなるほどと思いました。


 

あとがき
 ここのところ給付金の不正受給や誤送金問題が騒がしい。コロナ禍においては、国民の生活を守ることが優先され、チェックが後回しになってきたことは社労士の私も実感している。だからといって本来はもらえないお金をもらうことで幸せになれるだろうか・・お天道様は見ているよ。(喜志)


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