錦糸町 税理士法人　坂部綜合会計／アサヒ・ビジネスセンター

新たな事業環境に即応した経営展開サポート事業 　

税理士　 　坂部　達夫　　

１．補助金(助成金)とは

　補助金(助成金)とは、国や自治体が事業者に対して経費の一部を補填する支援制度です。融資と違って返済が不要なため、事業活動を進める際の資金面の不安を解消してくれます。
　国(省庁)や自治体など運営母体は様々で、補助金申請の条件・補助対象となる経費・募集スケジュールなどのルールも変わります。毎年、多くの補助金が募集されており、補助金を有効活用することで、少ない投資金額で事業成長を実現することができます。

２．新たな事業環境に即応した経営展開サポート事業

　今年度注目を集めているのが、「新たな事業環境に即応した経営展開サポート事業」という、東京都が募集している助成金(以下、本助成金)です。これは、既存事業の「深化」「発展」につながる取組に対して助成するもので、以下のような特徴があります。

　●助成金額が最大800万円で、助成率が2/3である。
　●2025年3月まで毎月募集がある。
　●個人事業主や小規模事業者も対象である。
　●申請に必要となる様式が、他と比べてシンプルである。

　申請にかかる負担に比べて助成金額・助成率が高く、毎月募集と間口も広いことから、使い勝手が良い助成金となっています。

　ここで、助成金額と助成率について説明します。
　以下の例のように「使った経費に助成率を掛けた金額が助成される」「ただし、最大の金額は超えない」というルールになっています。

　●使った経費が税抜き900万円であれば、助成金額は900万の2/3である600万円となる。
　●使った経費が税抜き3,000万円であれば、助成金額は2/3である2,000万円ではなく、最大の800万円となる。
　●使った経費が税抜き1,200万円であれば、助成金額は2/3であり、かつ、最大の800万円となる。

　「深化」「発展」とは、既存事業で提供している商品・サービスの品質を高めたり、新しい商品・サービスを提供するといった取組をいい、例えば、以下のような内容となります。

　●喫茶店が、自家焙煎したコーヒー豆をEC販売するという事業に取り組む。
　　　→コーヒー豆の焙煎機・ECサイトの構築・パッケージデザインの費用を助成してほしい。

　●自動車部品製造業の会社が、新しく半導体装置の部品製造に取り組む。
　　　→そのための工作機械の導入費用を助成してほしい。

　●青果卸売業の会社が、商品の梱包・出荷におけるミスを減らすため、AIカメラで自動検品するシステム導入に取り組む。
　　　→システム導入費用を助成してほしい。

　●人材会社が、求職者と求人企業をAIマッチングするシステムを開発・導入してエージェントの作業工数を減らしたい。
　　　→システム開発費を助成してほしい。

３．申請手続き

　本助成金を申請するまでの流れを説明します。

①事務局のHPで情報を収集する。募集要項に、応募条件・必要書類・対象経費等が記載されているので確認する。
　本助成金の場合、「直近決算の営業利益がマイナス」もしくは「直近決算の売上が、2019年～2022年決算のいずれかと比べて減少している」という条件を満たす必要がある。また、取組を実施する場所にも条件があるので確認する。

（事務局HP）公益財団法人東京都中小企業振興公社「新たな事業環境に即応した経営展開サポート事業」
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/josei/jigyo/kankyo-sokuo/index.html

②申請に必要な様式をダウンロードする。

③申請書に必要事項を記載する。申請者の概要、事業計画、実施スケジュール、経費の内訳等を記入する。

④その他、申請に必要な書類を準備する。

⑤申請受付期間になったら電子申請を行う。
　申請はjGrantsというサイトで実施する。マニュアルがあるのでそちらを参照しながら作業を進める。
　jGrants ネットで簡単！補助金申請 | jGrants (jgrants-portal.go.jp)

　申請書で最重要なのは事業計画になります。この内容が、採択・不採択を大きく左右します。事業計画は、自社が新しい取組を行うことの妥当性・必然性・効果を、文章という形で審査員にプレゼンするものです。わかりやすく、論理的な文章を心がけるとよいでしょう。
　また、電子申請にあたり、「GビズID」と呼ばれる専用のIDとパスワードを準備しておく必要があります。詳細は以下を参照ください。
　GビズID | Home (gbiz-id.go.jp)

　※本助成金は、大変人気のようで、すぐに受付終了となります。毎月の申請受付開始日の９時に手続きできるようにしましょう。

　なお、本原稿の内容は、2024年8月30日時点の情報を元にしております。最新の情報は、必ず事務局HPをご確認ください。

４．さいごに

　さいごに、補助金(助成金)に関する注意事項を記載します。

　●補助金（助成金）は、応募条件がありますが、応募した後も、事業計画の審査、経費使用の妥当性の審査などの審査・監査があります。
　　応募したら絶対に補助（助成）されるわけではありません。

　●補助金(助成金)ごとに実施期間が定められています。その期間内に、発注→納品→請求→支払いを完了しておく必要があります。

　●補助金(助成金)の採択発表前に発注したり支払ったりした経費は対象外となります。投資タイミングには十分お気を付けください。

　●補助金(助成金)の振込は、すべての支払が完了した後になるため、補助金（助成金）の分を含めた現金を用意しておく必要があります。
　　そのため、一時的に資金繰りは悪化することになります。

　●従業員の直接人件費や、車両・パソコンなど汎用品の購入費は、補助金(助成金)対象外となります。

　補助金(助成金)は、対象経費の制約や煩雑な事務手続きなどの負担がある一方、手元資金の持ち出しを少なくしながら投資を実施することができます。物価高騰など、企業を取り巻く環境は厳しい状況が続きますが、このような支援制度を自社の経営に取り入れていただければと思います。